水素は化石燃料に変わる次世代エネルギーと言われており、世界的に導入が進んでいます。ただ、まだまだ問題点も多いので、今回は水素の現状について解説いたします。

水素とは?
水素は原子番号1番で最も軽い物質です。このため、燃料としたときに非常に軽いので燃料の重量によるエネルギーロスが少なくて済みます。一方で、単位体積当たりのエネルギー密度が低く、液化が難しいので燃料タンクが巨大になると共に、高圧でタンクに保存しなければなりません。このため、扱いが難しく、ガソリンなどの化石燃料よりも扱いが難しいです。
メタン(CH4)と水素(H2)を比較してみると、メタンの分子量が16、水素が2と同じ体積の気体として比較した場合、メタンの方が8倍重いです。一方で、メタン分子には水素原子が4つ、炭素原子が1つ含まれていますが、水素分子には水素原子が2つしかありません。このため、一つの分子から得られるエネルギーは、メタンの方が水素の3倍くらい多くなります。つまり、同じエネルギーを得ようとすると、水素はメタンの3倍の体積が必要になる、となります。このため、水素は軽いが燃料タンクが大きくなる、という訳です。
水素は水や化石燃料に含まれていますので、水素を得ようとすると水を電気分解するか化石燃料を水蒸気改質を行うことで得られます。他にも水酸化ナトリウムを作る際の副生成物などとしても得られています。
最も手っ取り早い方法は水の電気分解だと思いますが、この方法は前提としてクリーンな電気が必要になります。クリーンな電気とは、発電の際のCO2排出係数が十分に低い電気を指しています。このため、太陽光発電や水力発電、原発の電気を使用する必要があります。電気分解に使用する電気を化石燃料の火力発電で賄うのは意味があります。このため、水素を普及させるためには再エネ発電をより普及させる必要がありますが、再エネ発電は天候に左右されるため安定した発電ができません。また、電気の価格や設備の価格もまだまだ高いため電気分解で製造される水素の価格はまだ高いです。このように再エネを利用した製造された水素は「グリーン水素」と呼ばれています。
一方で、化石燃料の水蒸気改質ですが、こちらは安くできるので結構普及しています。ただ、製造の段階でCO2を排出してしまうため、このCO2を回収するCCSという工程が必要になります。この方法で製造された水素は「ブルー水素」と呼ばれています。回収したCO2は大気中に放出するわけにはいきませんので、どこかに貯蔵しなければなりません。このCCSの手間がかかるという欠点がある上に、水素とCOやCO2が完全に分離できないので、純度に問題がありそのままでは燃料電池に使用できる水準ではありません。このように、安価で高品質な水素の供給はまだ行われていないために、水素の普及もまだ進んでいません。
他にも色んな水素の製造方法がありますが、個人的に面白いと思ったのが地球のマントルから水素を得る方法です。
地球の地下には豊富な水素が眠っている?
実は地球の地下から水素が湧き出ています。最初はえ?ってなりましたが詳しく調べてみるとなるほど、と納得しました。プレートの境界線上など、プレートの活動が活発な地域の海底には熱水噴出孔があります。チューブワームとか鉄の鱗を持つスケーリーフットとか珍しい生き物が生息している場所でもあります。この熱水噴出孔の熱水を調べてみたところ、大量の水素が溶存していることが分かっています。もっと面白いことに、この水素と海中に溶けている酸素が燃料電池のように反応して電気が流れる現象も観察されていると言います。
https://rnakamura-lab.riken.jp/image/rn201603.pdf
果たして、この水素は一体どこから来たのであろうか、という点ですが実は橄欖石由来なのです。橄欖石はMgとSiとFeの酸化物であり、マントルの主成分であると言われています。この橄欖石中のFeは2価であり、もう一回反応できる余地があります。この2価のFeを含んだ橄欖石に地熱で温められた熱水が触れると水分子と鉄が反応して3価のFeになり水素を放出します。水素が放出された後の橄欖石は蛇紋岩になります。実際に橄欖石を買ってきて酸と反応させる実験をしてみると、水素が発生しました。他の石では水素は発生しませんでしたので、鉄の酸化により発生した水素だと思われます。
まあ、このように面白いメカニズムなのですが、この地下に眠る橄欖石と水から水素を取り出そうという計画を目にします。この水素を「ホワイト水素」と呼ぶことがあるようですが、この手の話が出ると、本当にやるのかな?と思って見てます。マントルまで穴を掘って熱水を注入し、発生した水素を回収しなければなりません。縦方向に穴を掘るのはそれほど難しくないでしょうが、まんべんなく水素を発生させるためには横方向への穴を掘らなければならないような気がします。それともマントル内は隙間が多く、熱水が網目のように流れて効率よく水素を発生させることが出来る?いずれにせよ莫大な予算が必要でしょうし、その割には黒字になるのか疑問です。
そんなこんなで色んな水素の製造方法がありますが、グリーン水素の本格的な導入にはまだ時間がかかると思われます。