企業が脱炭素戦略で見るべきポイントを解説いたします

最近は多くの企業が脱炭素を行うようになっています。この流れに伴い、脱炭素に関する様々な話題が出てきていますが、まだまだ間違った理解が見られることや、そもそもどうしていいかが分からない、といった話も耳にします。そこで、今回は企業が脱炭素戦略を考える際に大切なポイントについて解説いたします。

全ては排出係数で決まる

CO2排出削減を行う際に最初に見るべきポイントは排出係数です。排出係数とは排出原単位とも呼ばれており、その製品を作る際にどれだけのCO2を排出したか、という数字です。例えば、鉄を1kg作る際にCO2を1kg排出した場合は、排出係数は1kg/kg-CO2となります。これは化石燃料を直接燃焼させた際や、発電した際にも作ることが可能です。電気の場合は1kWhの電力量を発電した際に排出されたCO2量となり、最近は電力会社のホームページに記載されています。この排出係数は小さい方が製造時によりCO2排出量が低いことを表しているので、この数字が小さい方がクリーンとなります。

よく耳にすることに、EVにするとクリーンだ、水素は燃焼にCO2排出しないのでクリーンだ、といいますがそんなことはありません。なぜなら、EVを走らせる電気が化石燃料を燃焼させて得られたもので、排出係数が非常に高ければそれはクリーンと言えません。水素も同様に、燃焼時にCO2を排出しないと言っても、水素を製造する段階で大量のCO2を排出してるのであればその水素はクリーンと言えません。

そもそも、排出係数は全ての製品やサービスについて算出できますので、まずはこの排出係数を見て数字が十分に低いかどうか判断しましょう。

Scope1及び2の算出方法とは

最近はサプライチェーン全体の排出量を算出するために、Scope1,2,3という分け方がなされるようになっています。この内、Scope1及び2は自社の直接排出と間接排出を指しています。Scope3は自社を除いたサプライチェーン全体の排出を指しています。Scope1と2は何かというと、Scope1は自社で主に化石燃料を燃焼させた際に排出したCO2の量を表しています。細かくて恐縮ですが、この他にも例えばセメントを作る際に炭酸カルシウムから酸化カルシウムを作った際に出る、非エネルギー起源の排出も含まれます。Scope2は自社で使用した電気を発電する際に排出されたCO2の量を表しています。つまり、Scope1と2の合計が自社が直接排出したCO2量になり、日本企業や自治体等の事業者のScope1と2の合計が日本全体のCO2排出量になります。

この計算は実は非常に簡単で領収書や請求書を集めればOKです。つまり、領収書には購入した灯油やガソリンの量が書かれていますので、これを集計してその量(活動量)に灯油やガソリンの排出係数を掛ければScope1の排出量がでます。化石燃料を燃焼させた場合の排出係数は化石燃料の種類により決まっていますので、排出係数さえわかればエクセルで簡単に算出できます。

同様に、Scope2の場合も電気代の請求書に何キロWh使用したか記載されているので、この電力使用量に電気の排出係数を掛ければOKです。電力会社の排出係数は大手ならホームページに記載されているのでその係数を使用します。単位を間違えないようにすることが計算ミスをしないポイントです。最近は電力プランごとに排出係数が異なっている場合があり、排出係数の小さいプランを選択することで排出量を減らすことが可能です。

この排出係数ですが、排出係数リストを環境省のホームページで見ることが可能です。ただし、使用する場合には注意が必要で、「自組織のサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量算定」をする際にのみ使用ができます。また、排出係数は製品の重さのみではなく金額などもありますので、例えばその製品を100万円分購入した際の排出量も算出でき便利です。分からないときは金額ベースで算出すればいいです。特に、取引先の会社が排出量を出来ない場合は、金額ベースで計算すれば簡易的な値を算出可能です。特にScope3のカテゴリ6の出張やカテゴリ7の通勤の排出量は年間出張費や年間交通費に金額の排出ケースを掛けて算出するのが非常に簡単なのでこのような項目に関しては金額ベースで十分に思います。

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html

このように、会社全体の排出量であるScope1及び2の算出自体はそれほど難しいことではありませんが、この排出量を自社の製品やサービスごとに算出する場合は途端に難しくなります。なぜならば、それぞれの製品に使用した燃料や電気を振り分けなければならないからです。正確に計算する場合には、それぞれの生産ラインで使用した燃料や電気量を算出して年間の生産数や量から割る、とする必要がありますので、会社規模が大きくなると手計算よりも集計ソフトをシステム内に組み込んで使用した方が早いです。そのようなサービスを提供する企業も増えています。

この製品ごとの排出量は、他社がサプライチェーン排出を集計する際に必要とするので他社への報告のために必要になります。また、将来的には製品製造時の排出量を製品のパッケージに記載する企業も増えると思います。

CO2の排出削減方法

まずは極端な話をしてしまい恐縮ですが、CO2排出量をゼロにする簡単な方法は燃料や電気の排出係数をゼロにしてしまうことです。排出係数をゼロにできれば幾ら電気を使用しても排出量はゼロのままです。つまり、大きな方針としては排出係数を下げることが大切です。

日本の戦略を見ていると、化石燃料による発電を削減しつつ、その穴を埋めるために原子力発電をベースロード電源にして、再エネ発電設備を普及させる方針のようです。現に、再エネの普及率は右肩上がりで上がっています。これにより、電気の排出係数も年々低下していますので、日本全体のScope2の排出量はその分低下していきます。2050年までに日本で使用する全ての電気を原発と再エネで賄えたら、Scope2に関しては何もせずに脱炭素達成になります。ただ、実際のところ再エネ発電は不安定なので、安定した出力が期待できる火力なども残さざるを得ないのではないでしょうか。冷却が容易な小型原子力発電所の話も耳にしますが、休止中の原発再稼働を含めて幾つかの問題があるので将来的に電源構成比がどのようになるかは今のところ不透明です。

問題はScope1です。化石燃料はボイラーなど熱源として利用されていたり、プラスチックなどの原料としても使用されています。代替燃料としてeメタンやSAFとも呼ばれる航空燃料、バイオディーゼルなどが出てきています。これらの燃料へとシフトしていく、という方向が考えられますが、この際に注目して欲し点は金額だけではなく「CO2排出係数」です。

一般的にどの製品も加工をするとその分エネルギーを使用しますので、加工の度に排出係数は増加します。一見低炭素に見えても排出係数を計算してみると製造工程が複雑で結構なCO2を排出していた、ということもあるかもしれません。上で挙げた燃料の他にも水素、アンモニア、エタノール、バイオマスなどなど思い浮かびます。このような新しい燃料は今後も出てくるかもしれませんが、これらのように低炭素だ、と主張している新燃料を見た場合は価格だけではなく排出係数も調べてみましょう。

企業のとるべき脱炭素戦略とは

これまでの解説から、企業がとるべき脱炭素戦略の一つに排出係数のより低い燃料や電気を使用することが挙げられますが、もう一つ大切な戦略に省エネがあります。省エネにより、使用エネルギーが削減できればその分だけ製造コストと共にCO2排出量を削減できます。こちろん、排出係数がゼロになれば省エネは必要ありませんが、製造コスト削減などにも繋がるので実施して損は無いと思います。

省エネの多くは設備投資が必要なので、この初期投資が回収できなければ省エネを行っても損をしてしまいできません。

一方で、昨今では省エネを行う際に補助金が出るケースが多くなっています。それも補助率が1/2などかなりの大盤振る舞いですね。このような補助金を利用することで初期投資が回収しやすくなる上、CO2排出削減も出来てしまいます。CO2排出削減分はカーボンクレジットを作って売れる可能性もあるので至れり尽くせり、という印象です。将来的には炭素税が本格的に導入される可能性が高いので、炭素税の節税効果もあります。

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/support

つまりの所、その省エネ設備の使用期間中で

補助金+省エネによるコスト減+カーボンクレジット売却益+(炭素税があった場合の減税分)+設備による生産益>省エネ設備の初期投資額

という不等式が成立するならば補助金を持って省エネ設備を導入するべき、となります。つまり、左辺の補助金(200万円)、コスト削減による利益(100万円)、カーボンクレジット売却益(50万円)、省エネ設備による生産益(700万円)とし、右辺の省エネ初期投資額を1000万円とすると、左辺の方が1050万円となり、右辺よりも高くなります。この場合は投資しても利益が出る、ということになります。ちょうど設備の入れ替え時期ですとどうせなら省エネタイプのものを導入しようとなりやすいので、このようなタイミングが理想ですね。

脱炭素を俯瞰していると、新しい価値基準が出てきていることに気が付きます。これまでの安い、早い、美味い、だけではなくクリーンである、という価値です。今のところこのクリーンという価値には具体的な金額はありませんが、炭素税など排出に価格を付けるカーボンプライシングが始まると実際の金額に換算され製造原価に乗ってきます。つまり、その製品を1つ製造するためにCO2が1kg排出されたのだから、その排出分を製造原価に上乗せしましょう、となります。

このロジックに気が付いていない企業様はまだまだ多いように見受けられます。また、今の段階では日本政府はまだ優しく補助金の大盤振る舞いなので、本格的にカーボンプライシングが始まる前に色々と手を打っておくのが良いでしょう。炭素税?ああ、また増税かと思わず本音が出てしまいますね。

ただ、これまでの歴史を見ていても、世の中が動いている時には成功者が出ています。明治維新では財閥が、高度経済成長期には家電や自動車、半導体、ITバブルでは多くのIT企業が大企業へと成長しました。脱炭素の今はどうでしょうか?時代が変わっているのでビジネスチャンスと捉えるべきでしょうか。

話が少しそれてしまいましたが、もう一つ注目すべきことに建物のZEB化があります。ZEBは建物内の省エネを行うと共に再エネ発電をしてその電気を使用することで、年間のエネルギー収支をゼロにした建物です。つまり、電気代がかからない建物とも言えます。

ZEBは電気代がかからない上に、こちらも今の段階では結構な補助金があります。日本全体で見ても家庭部門、つまり建物からの排出は多いので、この排出削減のために政府はZEB化を促進しています。将来的にはZEBでない建物は不利益を被る可能性がありますので、将来的に新築する際はZEB化の検討はしておいた方が良いと思います。

工場などの場合には屋根や空いた敷地に太陽光発電設備を導入して発電することも考えられます。自社単独で設備を導入した場合、電気は全て使える上、売却もできますが、初期費用やメンテナンス費用がかかります。最近ではPPA(Power Purchase Agreement)、電力販売契約の仕組みが出来ており、様々なPPA業者があります。このPPAを利用することで初期費用やメンテナンス代がかからずに太陽光発電設備を導入することができます。しかし、PPAでは発電した電気はPPA事業者から購入しなければならないなどのデメリットもあります。それぞれに一長一短がありますので要検討ですが、建物のZEB化はScope2の排出量を削減できるために実施、検討している企業は多いです。

つまり、脱炭素戦略の基本方針としては、燃料転換や再エネ設備の導入などでより排出係数の低い燃料や電気を使用すると共に、省エネ、創エネを行い、排出ゼロに近づけることであり、まず検討すべき点は、補助金をもらいながら省エネ、ZEB化でしょう。

今回は脱炭素の戦略についてお話いたしました。何かご質問等ございましたらコメント欄へ書くか連絡フォームからお知らせください。お仕事も随時受け付けておりますのでよろしくお願い申し上げます。

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マッケンジー研究所代表です