そばやうどん、ラーメンなど様々な麺をFT-IRで測定して比較してみた

うどんやパスタやラーメンの麺の違いを分子構造からごくごく客観的に評価したらどうなるのであろうか?麺をFT-IRで測定して比較してみました。

と言うことで麺類を準備しました。今回は乾麺を構成する物質の分子構造を見てそれぞれの麺について議論してみます。

サンプルの準備

今回使用した麺。この後スタッフが美味しくいただきました。

全て乾麺です。水分が多いと水の成分が検出されるのであまり上手く分析できなくなります。もちろん、生麺を乾燥させても構いませんがめんどくさいので乾麺にしました。今回用意したのは10割蕎麦、マルタイの棒ラーメン、普通のパスタ、50%糖質オフのパスタ、グルテンフリーのパスタ、そうめんの6種類です。これを乳鉢で粉にします。

乳鉢ですり潰す

すると、こんな感じで粉になります。

粉々になった

で、全ての麺を粉にしました。こんな感じです。パスタがやたら硬い…。

サンプルの準備は万端

FT-IRでサンプル測定

これをFT-IRと言う測定器を使って分析してみます。分子結合を簡易的に測定できる汎用性の高い測定器です。値段も割と安く、使いやすいですが分子の同定などの用途にはあまり向いておらず、サンプルの全体的な分子構造の変化を見ることに使用してます。サンプルの分子構造が変化したらそれに伴ってピークが変化します。

粉などはATRと言ってゲルマニウムの結晶に直接載せて測定します。このゲルマニウム結晶の中を赤外線が通ります。

島津社製のFT-IR。使い勝手がよくかなり高性能です。驚きました。

こんな感じで粉をセットします。硬いモノを挟むとゲルマニウム結晶が割れます。

サンプルをセット

さてさて、それではまずは蕎麦でも測定してみましょうか。測定結果は以下の通りです。

蕎麦のFT-IR波形

おお、ピークが出た。ピークとはその波数の赤外線が吸収されていることを意味しており、特定の分子結合が存在していることを表しています。

ふむふむ、何か色んなピークがありますね。しかし、思ったほどないというのが一目見た印象です。私は有機物には縁が無いのでよくわかりませんが、もっと色々出るのかな?と思っていました。ただ、一目見てこれは、と思う結合がいくつかあります。分かりやすいように水と市販のエタノールを測定してみました。

蕎麦と水とエタノールの比較

すると、水(H2O)とエタノール(C2H5OH)と共通するピークが見られます。3400cm-1くらいのピークは水由来であり、乾麺と言えども麺の中には水由来のピーク、つまりH2Oか-OHが多く含まれていることが分かります。

水由来と言っても水分子には-OHが二つあって、いくつかの振動が存在していますのでピークを考える際に複雑です。2800cm-1辺りのピークはC-Hですかね。1100cm-1あたりに大きなピークが見られていますが、麺のピークはC-HよりもC-OやC-O-Cに由来していると思われます。ピークはリストを見ながら頑張って同定していきます。

ただ、分子構造によってピークの位置がずれたりしますので、実際のところどの振動の吸収に由来するかを特定するのは非常に難しい場合があります。それで、その他の麺を一気に測定して同じグラフにしてみました。するとこんなになりました。

サンプルの比較

って、全部ほぼ一緒でした。まあ、これ実際のところライブラリで調べてみると、デンプンの波形と一致しているのですね。つまり、どの麺も分子構造的にはデンプンの塊でした。因みにデンプンの分子構造はこうなっているようです。C-H, C-O-C, -OHだらけですね。こういう分子構造だから、上の波形みたいになるのでしょうね。

https://byjus.com/biology/starch-diagram

結論は麺はデンプンの固まりです、とこれで終わっても面白くないので、より詳細に見てみましょう。実際に、赤枠で囲んだ1600cm-1あたりのピークに少し差異が見られているので、水とエタノールを一緒に載せてどうなっているのか詳細に検証してみます。

何か大きく分けてピークが3つあるので、それぞれピーク1、ピーク2、ピーク3と名前を付けました。また、点線はそれぞれ水とエタノールです。ピーク1に関してはグルテンフリーパスタが大きく、その他は若干ピークを持っているような感じのレベルです。ピーク2は水のピークと少しずれており、エタノールにはありません。つまり、H2O由来なのだと思われますが、麺類に関しては位置がずれているのでそのほかの結合由来の可能性もあります。また、糖質オフパスタが最も大きく、グルテンフリーパスタが最も小さいです。ピーク3に関しては水とエタノールに見られないので、乾麺特有のピークと思われます。ピークの強度はピーク2と連動しているように見えます。こちらも糖質オフパスタが最も大きいです。

まあ、要するにピークの違いは加工して作ったパスタに出ている、と言うことになります。とりあえず、原材料を見てみましょう。

● グルテンフリーパスタの原材料

とうもろこし(遺伝子組み換えでない)、玄米、米、でん粉、キヌア/乳化剤

● 50%糖質オフパスタの原材料

小麦粉(国内製造)、小麦たん白、デュラム小麦のセモリナ、全粒小麦粉、食塩、加工でん粉、着色料(カロチノイド)

グルテンフリーパスタの原材料を見てピンと来たのが乳化剤です。現在認可されている乳化剤の全てにC=O結合が含まれているので、ピーク1は乳化剤由来のC=O結合でしょう。

乳化剤 – Wikipedia

ピーク2と3が難しいのですが、ピーク強度が強い麺はパスタとそうめんなど小麦なのですね。また、グルテンフリーが弱いので、これから推測されることはこのピークはグルテン由来の割合が大きいのではなかろうか、と言うことでここは先人の知恵をお借りしてグルテンのFT-IRデータを探してみました。

するとビンゴ!と下のように1650cm-1の付近はC=OとN-Hに由来し、1540cm-1付近のピークはN-HとC-Nに由来している、とあります。グルテンはタンパク質なので窒素を含んでいますし、窒素との結合に由来する赤外吸収が起こっているということでしょうか。これによりグルテンが入っていない蕎麦やグルテンフリーパスタのピークが弱くなる、つまり窒素に由来する結合が少ないのでしょう。

https://www.researchgate.net/profile/Suresh-Valiyaveettil/publication/263955167/figure/fig3/AS:336557736251393@1457253025488/FTIR-spectra-of-PVA-I-gluten-II-and-PVA-gluten-nanofibers-III-peaks-confirms-the.png

FTIR spectra of PVA (I), gluten (II), and PVA/gluten nanofibers (III); peaks confirms the gluten major functional groups of amide 1 (C=O stretching, N−H vibration) at ∼1650 cm −1 and amide 2 (NH bending and CN stretching) at ∼1540 cm −1 , respectively.

結論

ただ、飽くまで最も大きいピークである1020cm-1のC-Oと相対的に比較して、ということです。まあ、最後は推測で終わってしまいましたが、FT-IRあるあるです。あーだ、こーだとありこの辺の解釈が難しく、こだわりの強い人に絡まれるとあれもこれもとなってやたら仕事が増えるんですね^^;完全に理解するには原料や製法を調べると共に、他の測定や実験を行い判断する必要がありますが、適度なあきらめも肝心です。

あ、そうそう、結論を書きますが、麺類の分子構造はデンプン由来のC-OやC-O-C、-OH、C-Hを主体として、添加物やグルテンの存在によりC=OやN-Hなどが増えると、言えると思います。

今回は以上ですが、もし何かしらご依頼ごとがございましたら以下のお問い合わせフォームからご連絡ください。

投稿者について

代表

マッケンジー研究所代表です